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弓人間で描いてみる

人間には約300の関節があり(手足の指だけで60か所ある)、それをたくさんの筋肉や腱で動かしている。さらにその上を一枚の大きな皮で覆われているのが人体だ。
それらが相互に複雑に絡み合っているから、人間と同じような人形(ロボットとかアンドロイドとか)を作るのは相当難しい。
動いていなければ本物の人間かと思うほど精巧な人形を作れたとしても、動いた途端に「ああ、人形か」とわかってしまう。
最近の3Dで作られたゲームキャラでも、キャプチャだけ見てると「こんな人いるわー」と思うほど、リアルだ。
しかし、動かしてみるとなんというか、重量感がない、走っていても雲の上を走っているかのような着地感がない。
ゲームに限らずアニメでもそれを感じる。むしろ従来の2Dアニメの方がロボット感がなかったりするのは気のせいだろうか。
(もちろんこれはハードのスペックの問題もある。細かく作りこめばそれなりにできるかもしれないが時間と費用の問題が、が、が。。。)

いやそんな事はぐだぐだコラムにでも書いとけと言われそうですが、今回のテーマは「しなやかに、のびやかに」です。

人物を描くとき、まずアタリを描くわけですが、このアタリを棒人間で描く方もいらっしゃると思います。
とは言っても、まさか定規を使って描いてはいないと思いますが、「棒」というイメージからどうしても真っ直ぐに描くと思い込みがちになってしまう。
しかし人体には真っ直ぐな所なんて無い。
真っ直ぐっぽい上腕骨や大腿骨ですらカーブしたへこみのようなものがものがあり、どこでも均一な厚みがあるわけではない。
さらに筋肉の形も外側と内側ではそれぞれ違う形や大きさをしている。
確かに大雑把に見れば真っ直ぐに似ているかもしれない。
でも真っ直ぐに描いてしまうと、ロボットっぽかったり、硬い絵になってしまう。大体人間は真っ直ぐになるというのは不自然なことなのだ。

真っ直ぐになることはできる。整列した時の体勢だ。
小学校の時から整列の訓練はさせられるわけだが、ただ立ってればいいというわけじゃなかったよね。
曲がってたりゆらゆらしたりすると先生におこられたし、手もピシっと脇につけなきゃいけない。
これはそういう体勢になろうと意識しないとできないこと。
真っ直ぐに立つというのは、体を緊張させないとできないことなのだ。

全身が映る鏡で横向きに立ってみてほしい。
力を入れずにリラックスした状態であれば、腕はわずかに前側に曲がっていると思う。
真っ直ぐにするには少しだけ力を入れなければならない。
廊下で友達と談笑している時、常に整列の姿勢でいる友達がいたら。。。。うん、変なあだ名をつけられそうだよね。

これは腕に限らず腰とかもそう。
背筋が真っ直ぐにのびた姿勢は確かに美しい。
正座でも椅子に座る場合でも、目上の方の前とか、緊張する場面では背筋をのばして座ることになる。
しかしこれは長時間に及ぶとツラい。まあ同じ姿勢を維持するのはどんな姿勢でもツラいけどね。
家族や親しい人の前では、前傾姿勢になったり、背もたれによっかかったりするんじゃないでしょうか。
一番楽な姿勢は胎児の姿勢かもしれませんね。

「棒」のように真っ直ぐというのは「硬い」というより真っ直ぐに伸ばしているポーズをとっていることになる。
何もしていない姿勢ではないのだという説明にここまでさいてしまった。haha

そこで「棒」人間ではなく、「弓」のようなしなりを持った棒人間を描いてみようという話です。
まあこんな感じで。
棒で描くより弓で描いた方が生き生きした感じになりませんか?多分描いてても楽しく描けると思うんだ。
というのも、自由な線が引けるからね。自分が最初にイメージしたポーズを表現しやすくなるんじゃないかな。

頭の中でイメージした時は躍動感があったり、柔らかいイメージだったものが、いざ紙に描いてみたら硬くなった。
それって原因がいくつかあるんでしょうが、イメージを「棒」で表現してしまったということも一因になってるかもしれませんよ。
弓人間をアタリにするというよりも、アタリを描く前段階で、「こんなポーズを描こう」というイメージラフとして描くといいと思います。
紙の端にでも弓人間を描いておくと、下描きが描き終わるまで最初のイメージを見失うこともないんじゃないでしょうか。
もしもこのイメージラフの段階ですでに硬い感じがしたら、その脳内イメージは単なる勘違い、妄想だったということ。イメージ力というのは大事なんだよ。

大きなポーズは何となくいけるが、さりげないポーズの時、ポーズが硬くなる。
左の絵のようにコップを持っている方の腕はいいとしても、何もしていない方の腕をどうしていいかわからない。
これは上の方でも書いたけど、真っ直ぐになってる方がむしろ「何かをやっている」ことになってしまうんだ。
何もしていない状態なら少し前方に曲がっている方が自然。

着衣の場合、特に制服のような少し厚手の生地や体にぴったりフィットした服じゃない場合、実際に見たり、写真を参考にしたりすると、腕が真っ直ぐになっているようにしか見えない場合もある。
洋服の構造がそうなっているのだから、そう見えてしまうのは当たり前。

真っ直ぐに見えるのなら真っ直ぐに描いてもいいんじゃない?と思いますか?
でも写真の制服JKの姿はいまいちもっさりして見えませんか?
学校で制服を着ている時にはわからなかったけど、私服になったらスリムでかっこよくなる子。巨乳なのに制服着るとデブにみえちゃう子。とかいると思うの。
洋服というのは縫製デザインによって体の微妙なラインを見えなくしていまい、結果もっさりした体型になってしまう。

2次元絵は静止している上に輪郭がある、という3次元とは違った法則があるんだ。(3次元にあるのは輪郭ではなく境界)
キャラの動きを魅力的に見せるには着衣であっても、体のラインを拾うっていうのは大事なことなんです。
顔はデフォルメしまくってるのに、体の方は律儀にリアルからはみ出さないというのもおかしな話だよ。
美術に興味が無い人は、名画はなんで裸が多いんだと思ったりするんでしょうが、そういうことなんだ。昔の服は余計に自然な体のラインを隠してたからね。
じゃ、じゃあ学園ものも躍動感を出すためにキャラ全員裸で、、、というわけにもいかない。R指定送りになるからなあhaha
よくいきなり服を描くんじゃなくて、裸(素体)状態を描いてから服を着せる、といわれる事の意味がおわかりいただけただろうか。



(お暇だったら読んでね^^)

本屋さんに行くとデッサン技法の本などたくさんあります。基礎からちゃんとやろうという人はそういうのを買ってやっている人もいるでしょう。お金が無い場合は図書館に行くのもいい。
たまにそういうデッサン本の中の図を模写している方もいらっしゃいますね。
私はデッサンはあくまで自分の目で対象を見て描くものだと思っていたので、デッサン本を見てもデッサンの見本として見るだけで、著者が描いた図を模写するという発想は無かったな。
勉強熱心な人だなーと感心します。
そんな私でも実は唯一模写しまくったデッサン本があります。故・長沢節氏のモードデッサンの本です。
図書館で見つけた本だったので、期限が来たら返して、すぐにまた借りて、、、を繰り返して多分2、3か月ぐらい借りてたような気がする。(古い本なので、入手することは困難だと思う。)
長沢氏はファッションデザイナーなので、デッサン画といっても美術のデッサンとはちょっと違って、陰影はほとんどなく、どちらかというとクロッキーに近い。
一応デッサンなので、ちゃんとモデルにポーズをとらせているのだが、描かれたものは8頭身でほっそーいの。
もちろんスリムで高身長のモデルを頼んでいるんだろうけどそれにしてもコレ、デフォルメしてるよね、と思えるような絵なのです。
美術では基本としてデッサンとは対象を見たままに描くというのがあるんで、こんなにデフォルメしまくってもいいんだ。。。。と当時の私は衝撃をうけたのでした。
デフォルメは体型だけでなく、その動き。長沢氏の描く人物はファッションデザイン画特有の、所謂ケレン味のあるポーズで、何気ないポーズでもかっこよく見えるように描かれている。
そして何よりも鉛筆の自由でのびやかなタッチが一番の魅力。
この長沢氏の絵の影響で、膝や肘に骨っぽさや関節が感じられない絵は今でも気持ち悪いんだよね〜。好みの問題だろうけどさ。
もしも興味を持って、この本を図書館で探してみようという方がいたら、一応言っておきます。着衣もありますが男女のヌードもあります。(写真はありません)


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